自販機でポン酢を売って話題のとらや物産(大阪市東成区)が、社運をかけて新製品を開発した。その名も「金のぽんず」で、高柄烈(コウ・ビョンリョル)代表(63)が歩んだ一盛一衰の半生のように、漆黒の液体には浮き沈みする金粉がはらはらと舞う。限定300本を当面は自販機だけで扱う予定で、高さんは「祝いの席に花を添えてほしい」と話している。【平川哲也】
金のぽんずは、徳島産のユズやスダチに北海道産の昆布や鹿児島県産のカツオ節を重ね合わせ、昨年冬に自販機で売り出した「鶴橋ぽんず」の原材料をさらに厳選。アゴだしがまろやかな風味を醸す逸品を金粉で彩った。割れにくいペットボトルを容器に、大阪・鶴橋かいわいの自販機5基で取り扱っている。
高さんの代名詞ともなった「自販機でポン酢」。通り過ぎた人が思わず振り返る奇想天外な発想は話題を呼び、テレビの情報番組でも取り上げられた。だが、1年で2万本のヒット商品を送り出した生みの親の半生は波乱に満ちている。
在日コリアン2世の高さんは、銀行員などを経て1992年に起業。製造したキムチを代理店契約した全国の店舗に宅配して売ってもらう、すなわち「キムタク」代理店システムを構築した。キムチがあまり流通していない頃だ。北海道から沖縄まで販路を広げたが、食材としての需要が高まって手軽にキムチが入手できるようになると埋没してしまった。
さらに2006年開店のフグ料理店も昨年5月にのれんを下ろした。残されたのは、てっちりに合うと賞されたポン酢だけ。コンビニエンスストアの店員など四つのアルバイトを掛け持ちしながら自宅の台所にこもって新製品の研究を重ねた。そして鶴橋ぽんず、金のぽんずが完成する。鶴橋ぽんずは、ポン酢愛好家がつくるウェブサイトでも絶賛されて殿堂入りを果たした。
高さんを、陰ひなたになって支えたのは家族だ。周囲から「またやるんかい」との冷ややかな視線を浴びながらも、ラベル貼りに日参してくれたのは次女(27)だった。高さんは言う。「鍋は家族で囲むもの。志望校に合格したり、病気が治ったり。金のぽんずはお祝いされる人の器にまずはついであげて、家族みんなで喜びを味わってほしい」。寒い夜にわが家が遠いお父さん、家族円満のために自販機で1本いかが?
限定300本 自販機のみの販売
金のぽんずを扱う自販機の設置場所は、とらや物産のホームページ(http://torayabussan.com/)。ペットボトル入り365ミリリットルが1500円。鶴橋ぽんずは同量で750円。問い合わせはとらや物産(06・6975・6606)。