「毎日イノベーション・フォーラム」の「地方創生とベンチャービジネス」分科会では、電子書籍取次のメディアドゥ社長で徳島県旧木頭村(現那賀町)の再生・復興事業も担う藤田恭嗣氏、北海道天塩町副町長で元外務官僚の斉藤啓輔氏、日本各地の地域活性化に取り組むエリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉氏が登壇。東洋経済新報社編集委員の福井純氏がコーディネーターを務め、地方でのベンチャービジネス成功の方法や課題について意見を交えた。
◇木下氏 地方創生は「営業から逆算」が重要
人口減少局面にある日本では、東京への一極集中が進み、地方の衰退に歯止めがかからない。こうした状況下では「地方の自治体こそ、民間資金を使って事業を行うべきだ」と木下氏は主張。大型公共事業として実需をつかまないまま予算を組めば、「施設は立派でも集客ができない事例が地方ではたくさんある。予算化されればその地域の経済力などを加味しないまま、力技で事業が実行される」と危機感を募らせる。一方で民間資金であれば、「採算が取れなさそうであれば、融資や投資はしない。財政が厳しい地方自治体こそ、事業を逆算しながら進めるべきだ」と訴えた。
2007年にメディアドゥのサテライトオフィスを地元に設立した藤田氏は、「当時は地元に協力者もおらず、行政との付き合い方もわからなかった。提出書類の作成に手間取った。情報やノウハウを提供してくれたら、もっと速く進められた」と振り返り、地元住民や行政とのパイプといった都心部からでも地方を支援する仕組み作りを地方創生の課題に上げた。一方、斉藤氏は行政側の立場で「行政はスピード感を持って進めているが、民間の人材が不足している」と天塩町の現状を説明、「民間の活力を最大化するような政策を目指しているが、民間の熱が上がり切れていない。行政との温度差が逆の場合もある」と実情を訴えた。
◇斉藤氏 販路の鬼に/「お金を稼ぐ」というマインドを
副町長就任から1年が経過した斉藤氏は、これまでに自動車を相乗りするライドシェアを活用した交通網整備や首都圏や海外の著名シェフとコラボした地元食材活用プロジェクト、電子図書館の導入などの政策を矢継ぎ早に打ち出してきた。地方の特産品も「どこで売るかを明確にしないと、お金は生まれない。販路の鬼にならないといけない」と主張する。これまでに東京のラーメン店「ソラノイロ」と地元特産のシジミがコラボしたカップラーメンが2万個を一瞬で売り上げたといい、「地方ではどこで売るかという意識がどうしても希薄になる。地方創生は地方の所得の向上であり、今後も“お金を稼ぐ”ビジネスマインドを育んでいきたい」と意気込んだ。
また、木下氏も地方創生には「所得の向上が重要」との考えに賛同。「地方の産業衰退は商業、林業、水産業、どれも構図は一緒。生産性が低いことが原因だ」と分析する。その上で「製造から小売りまで一貫で行い粗利も高い“製造小売り”などにビジネスモデルを転換していくことが重要だ」との認識を示した。さらに、「付加価値を付けて値上げをするためにどうするかを常に考えることも必要」と語った。
◇藤田氏 住民説明会で「1円もいりません」宣言
また、過疎が進む地元を復興させようと2013年に特産のゆずを加工・販売する農業生産法人「黄金の村」を設立した藤田氏は、地元住民への説明会で「事業で得た利益は、個人として1円もいらない」と宣言したところ、土地の提供者やゆずの契約農家など協力者が増加したという。藤田氏は「経営者は事業で利益を上げることは当然だが、地方にいるときは地方の文脈に合わせていくことで協力を得て事業を進めやすくなる」と地方ベンチャーを成功させるための秘訣(ひけつ)を語った。【寺田翼】