「第1回毎日イノベーション・フォーラム」では、世界初のサイボーグ型ロボット「HAL」の開発で知られるCYBERDYNE(サイバーダイン)の山海嘉之社長が「革新的サイバニックシステム最前線~社会変革への挑戦~」と題して基調講演を行った。
超高齢社会が直面する「重介護問題」は解決が急がれる深刻な社会課題である。現在、あらゆるモノがインターネットにつながるIOT、人工知能(AI)技術、ロボット技術がどんどん進化している。しかし、そこには人の情報が抜け落ちている。
こうした中、このIoTに、人の身体情報や生理情報などがインターネットにつながるIoHを加えた「IoH・IoT」を扱う技術として、人とロボットと、情報系が融合複合した新領域「サイバニクス」が創出され、実際に「革新的サイバニックシステム」として機能しはじめている。仕事や作業の支援、身体機能の改善や治療、健康管理や早期発見の支援、日常生活の支援のための革新的サイバニクスシステムによって、人が安心して健康に生活できる「重介護ゼロ社会」の実現に向けて未来開拓に挑戦しをしている。
2055年ごろには国民の4割超が65歳以上になるとの推計があり、要介護者や寝たきりの高齢者・病人は徐々に増え続け、家族や社会への負担はさらに厳しい状況になる。介護される側の残存機能を高める技術、自立生活を支援する技術、さらに介護する側の作業負担を軽減する技術を創り出すことで、人や社会が担う負担を大幅に軽減できる新しい手法を社会実装することは急務だ。
人間は体を動かそうとするとき、脳から神経を通して必要な信号を筋肉へ送り出す。我々が開発したHALは、この信号を皮膚から漏れ出る非常に微弱な神経信号として読み取って、リアルタイムで取得したビッグデータをAIで解析・処理することで、装着者が動かしたい部分のパワーユニットをコントロールする。それにより装着者の意思に沿った動作を実現することが可能になる仕組みだ。
(サイバーダイン提供)
HALを装着し、意思に従った動作を実現することで、人とHALの間で神経信号のループが構築される。装着者の脳神経系とHALが機能的に一体化してループが何度も繰り返されることで、脳・神経・筋系の繋がりが強化・調整され、身体機能の改善・補助・拡張・再生を促進することができる。
医療用HALを使った治療については、すでに筋萎縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィーなど八つの神経筋難病が公的医療保険の適用対象になっている。2016年9月からは患者の多い脳卒中の治験もはじまった。だが、日本では病名ごとの治験が必要で、革新技術を開発しても、新しい病名が発見されるたびに治験が必要になり、HALを必要としている患者に治療をすぐに届けられないなどの課題がある。大きな制度的調整が必要だ。
IoH、IoT化されたサイバニックデバイス(HALや心機能・動脈硬化を捉える新開発のバイタルセンサーや協調型AIロボットなど)から得られるヒトとモノのビッグデータをAI処理し、人を効果的に支援・治療する革新的サイバニックシステムを社会インフラ化する。人がさまざまな制約をテクノロジーによって乗り越え、いきいきと快適に暮らせるような社会変革を実現すべく、ここ4、5年を目処に「重介護ゼロ社会」に向けて社会実装を推進していきたい。
毎日イノベーション・フォーラム 山海嘉之氏基調講演
2017年8月18日