ビットコインなど仮想通貨の中核的な技術として知られるブロックチェーン。この技術の将来性に着目するベンチャー企業「Ginco」(ギンコ)=東京都渋谷区=は、仮想通貨を保管する「ウォレット」(専用口座)の無料アプリを配信し、デジタル通貨の取引がメインになることも予想される未来の金融業界のハブ(中心)になることを目指している。ブロックチェーンは将来、社会にどのような変化をもたらすのか。ギンコの森川夢佑斗社長(25)に聞いた。【統合デジタル取材センター/高山純二】
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「銀行なし」で送金が可能 金融分野は大きく変革する
--ブロックチェーンがもたらす社会の変化についてどうお考えですか。
技術には、新しい価値を生み出す技術と、効率を高める技術があります。ブロックチェーンは新しい価値も生み出していますが、どちらかと言えば、効率アップへの貢献度が高い技術だと考えています。我々が力を入れている金融分野で言えば、銀行の機能は預金と送金、与信ですよね。預金や送金はブロックチェーンの技術があれば、銀行がなくても可能になります。為替業務やクレジットカードの決済も同じで、金融分野は将来、大きく変わると考えています。
--なぜ銀行がなくても送金ができるのでしょうか。
ブロックチェーンは、複数のコンピューターで取引などの電子記録を分散・管理する非中央集権的な技術であり、利用者間の取引が可能です。だから、銀行を経由しなくても、利用者同士で直接取引すれば良いわけです。
ブロックチェーンはインターネットと同じくらいのイノベーションと言われています。インターネットの普及に伴い、さまざまな分野のIT化が進みました。情報はコピーが可能なため、情報流通の分野が大きく変わりました。一方で、コピーされると困る「お金」を扱う金融分野は根本的な部分で影響を受けませんでした。ブロックチェーンは、お金(デジタル通貨)のコピーはできないけれど、流通性は担保している技術です。IT化による情報流通と同じように、「ブロックチェーン化」が進めば、お金の流通性は飛躍的に高まり、今の銀行などが提供している預金や送金などの金融サービスはブロックチェーンが「インフラ」になると思います。
メルカリなど既存プラットフォームは不要になる可能性も
--金融以外の分野はいかがでしょうか?
利用者個人での取引が可能になれば、メルカリやウーバーなどのあり方も変わってくると思います。お金を直接送金できるようになっても、利用者同士をマッチングするプラットフォームは必要です。取引相手の「信用情報」を担保してくれるからです。とはいえ、取引相手の信用情報や利用者のレビューもブロックチェーン上で扱うことが可能なので、段階的にそのようなプラットフォームもいらなくなるのかもしれません。
また、利用者間の取引が進めば、資本主義に基づく大会社の影響力が弱まり、個人の努力がもっと反映される社会になっていると思います。金持ち同士が結婚して相続すれば資産が倍になるように、資本主義は偏りを作る制度です。良いアートや音楽が大資本に認められず、流通しないこともあったと思います。インターネットで個人でも発信できるようになりましたが、コピーが簡単なため、オリジナリティーを問われることもありました。しかし、ブロックチェーンでは発表日時や権利者を明記して自身の権利を主張しやすくなります。また、サービスを利用することで仮想通貨のような新しいデジタル資産を手に入れることができます。すでにブロックチェーン上では(オリジナルの)アートや音楽、ゲームなどが流通しています。5年後にはブロックチェーン技術を利用したサービスが普及していてもおかしくないと思っています。
個人の努力を反映 資本主義の「不平等」解消も
--著書では「現在の中央集権構造の格差是正につながる」とも指摘しています。
私の家は両親が離婚し、あまり裕福ではありませんでした。最低限の生活を営みながら、資本主義の差を感じることもあり、子どものころから「社会は平等ではない」と思い、社会システムの制度設計を疑問視していました。法律的なアプローチで格差是正を実現したいと考え、京都大法学部に進学しましたが、法改正は道のりが長く難しいとも思いました。そんな時、シェアリングサービスなど利用者間の取引ができるサービスが出てきました。その成長ぶりを見た時、法改正よりも、個々人の努力が反映されるツールを普及させた方が、個々人の生活は豊かになると感じたのです。そのツールがブロックチェーンでした。ブロックチェーン技術をけん引するつもりで、現在の事業を行っています。
--現在の事業概要を教えてください。
現在の仮想通貨交換業者は、各事業者が仮想通貨を一括して管理しています。この集中管理の結果、仮想通貨交換業「コインチェック」の「NEM(ネム)」流出のように、犯罪者に狙われ、被害額も大きくなります。集中管理を続ければ、いくら安全管理を強化してもハッカーの技術力と「いたちごっこ」となり、また巨額流出事件が起きかねません。我々は分散管理が重要であると考え、利用者一人一人が「秘密鍵」を持ってそれぞれのスマホ内で管理する「クライアント型ウォレットサービス」を提供しています。個別にウォレットを持つことで安全性が高まると同時に、ブロックチェーンに直接アクセスすることで利便性も高くなります。現在は海外で仮想通貨のマイニング(採掘)を行い、利益を得ています。
--今後の目標は。
無料アプリは今年4月から配布を始め、順調にダウンロード数を増やしています。対応通貨はビットコインやイーサリアムなど15通貨で、今後拡大していく予定です。アプリは現在、iPhone(アイフォーン)向けのみですが、順次アンドロイドやパソコン向けのアプリもリリースする予定です。今の目標は、デジタル通貨の送金・決済を通じて、公共料金やEC(電子商取引)の支払いができるだけでなく、ブロックチェーンを利用したサービスを気軽に利用できる世界を実現していくことです。
もりかわ・むうと 1993年2月生まれ、大阪府出身。京都大学法学部中退。2017年12月、株式会社Ginco(東京都渋谷区)を設立した。著書に「ブロックチェーン入門」(KKベストセラーズ)、「ブロックチェーンの描く未来」(同)など。