政府は「空飛ぶクルマ」の2020年代の実用化に向け、年内に官民協議会を開きロードマップ(行程表)を策定する。自動車の電動化や自動化の流れが将来「空」にも広がると見て、海外では次世代移動サービスとして開発競争が加速。日本でも技術開発や安全確保などの議論を本格化させる。
「空飛ぶクルマ」の明確な定義はないが、ヘリコプターとドローン(小型無人機)の間に位置づけられる。垂直に離着陸し、電池とモーターでプロペラを回して進む。さまざまなタイプが計画されており、飛行速度は時速100~数百キロで、自動操縦を想定するものが主流だ。エンジンを用いるヘリよりも部品が少なく構造が簡素▽操縦士がいらず運航コストはタクシー並み▽大規模なインフラなしで「点から点」へ最短で移動できる--などの利点がある。
先行する米配車大手のウーバー・テクノロジーズは、20年代に空飛ぶクルマを用いた移動サービスの実用化を狙う。操縦士と客の計5人が乗る機体は最高時速320キロ。20年に試験飛行し、23年にサービスを始める予定だ。30年には操縦士なしで自動飛行するようになり、1000機以上が1日数十万人を運ぶ未来図を描く。
欧州エアバスや中国のベンチャー「イーハン」なども開発を進めているほか、近年は米家電見本市「CES」やジュネーブモーターショーでも欧米企業が試作機を展示。シンガポールやアラブ首長国連邦(UAE)のドバイは交通環境の改善に向けて官民で実証を重ねている。日本では自動車や航空機メーカーの若手技術者、学生ら有志約100人が参加する団体「カーティベーター」が20年の東京五輪・パラリンピックでの飛行を目標に開発を急ぐが、追随する動きはまだ少ない。
こうした中、政府は「渋滞の緩和や災害救助、離島や中山間地の移動、観光など国内にも需要はある。高性能電池やモーターの量産では日本の強みが生かせる」(経済産業省幹部)として、空飛ぶクルマを次世代の基幹産業にしたい考えだ。5月、国内の自動車や物流、航空など関連十数社と官民の視察団を組み、ウーバーが米国で開いた開発者向けの会議に参加。同会議の誘致も働きかけた。ウーバーは8月末、米国外では初となる同会議を東京で開く予定だ。
ただ、実現に向け課題は山積する。電池やモーターの性能を現在の数倍以上に高める必要があるなど技術的なハードルはもちろん、離着陸場や通信インフラもいる。安全基準や運航管理に関する制度の整備、何より利用者の理解も必須だ。近く発足させる官民協議会では、関係省庁と民間がどこまで一体で取り組めるかが問われることになる。【和田憲二】
【空飛ぶクルマ】2020年代実用化へ 政府、ロードマップ策定へ
2018年8月30日