AIに国会答弁の壁 「かけひき」「ぼやかし」苦手

2018年1月16日

実証実験で「あいまいな発言の理解能力が不足」課題浮上


経済産業省が国会答弁を人工知能(AI)に下書きさせる実証実験をしたところ、閣僚や官僚によるあいまいな発言を理解する能力が不足しているという課題が浮かび上がった。徹夜で答弁を作成することもあり、経産省は業務効率化に向けて年度内に課題を整理し、導入に向けた検討をさらに進める。

実験は1800万円でコンサルタント会社に委託して実施した。同社が開発したAIの言語処理サービスに過去5年分の国会会議録を読み込ませ、国会議員らからの質問を想定した文章を入力すると、(1)過去の類似質問(2)過去の類似質問に対する答弁を基にした下書き(答弁のポイント)--が表示される仕組みだ。

昨年2月に2週間、職員約80人が利用し、終了後のアンケートに50人が回答した。「あまり」と「ほとんど」を合わせると、類似質問、答弁のポイントとも48%が狙い通りの表示が「出なかった」と答えた。

結果を分析したところ、AIが「法人税率」や「ものづくり補助金」のような政策用語を認識せず、「取り組み」や「円滑」など一般的な単語に着目したため、類似質問を検索する精度が低かった。政策実行の可否について明確に答えないこともあるため、質問にどう答弁すべきか判断することが難しい面もあった。

経産省は、各部署が作成した答弁書や経産相の記者会見など、AIが答えを導くために必要な情報を整理したうえで、実用化の可能性を探る。担当者は「国会では『かけひき』『ぼやかし』『はぐらかし』など、いろいろなやり取りがある。高い文章の判断能力が必要だ」と話す。
中央省庁の官僚は「質問に答えているようで逃げている独特のテクニックも使われる。AIで対応するのは難しいと思う」と実現性を疑問視した。別の官僚は「与野党の対立で国会日程の決定が遅れ、質問通告が前日夕方や夜遅くになることが問題。こうした状況を見直さないと業務効率化は果たせない」と指摘した。

一方、IT企業の創業に携わったことがある中谷一馬・衆院議員(34)=立憲民主=は「いずれは正確かつ明確なものを作れるようになるだろう。そうなると、あいまいな答弁を繰り返してきた閣僚や官僚は、AIに明確な答弁を突きつけられる。自分たちの答弁を見つめ直すきっかけにもしてほしい」と期待する。【宮本翔平、岡大介】

他のおすすめ記事