【農業】米国でIT大手やベンチャー企業が続々参入…ドローン、IT、タブレット

2018年6月28日

米国で情報技術(IT)を駆使して収穫量を増やしたり、肥料や水の使用量を最少化したりする「デジタル農業」が注目されている。「商機あり」とみたIT大手やベンチャー企業が次々に参入し、農業のIT化を競っている。コストを削減できれば、インドやアフリカなどでの応用が期待されるだけに、世界の食糧事情を改善する可能性を秘めている。【シアトルで清水憲司】
 

 
 
マイクロソフト社の農業試験場を飛ぶドローン=米西部シアトル近郊で、清水憲司撮影

収穫増と環境保護両立


米西部シアトル近郊にある米IT大手マイクロソフトの農業試験場には、ドローン(無人飛行機)がミツバチのような飛行音を響かせていた。搭載したカメラやセンサーで上空から土壌の温度や湿り気、栄養状態などを把握するためだ。地中に設置されたセンサーの情報と統合し、農地のどの部分にいつ、どのぐらい肥料や水を散布するのが最も効果的かを分析する。環境への負荷を減らしつつ収穫量を増やすことで「いつの日か食糧不足を解決したい」。インド出身の担当研究員ランビア・チャンドラさん(40)はそう語る。彼が目指すのは、20世紀後半に穀物の品種改良や化学肥料・農業機械の使用で収穫量を飛躍的に増加させた「緑の革命」の再現だ。


 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の人口は2050年に97億人に達する見込みで、食糧を行き渡らせるには12年水準か ら50%増産する必要がある。ただ、環境破壊が懸念される耕地面積の拡大は進めにくいため、面積当たりの収穫量増大が重要になる。デジタル農業をテコに「面積当たりの収穫量を67%増やせる」との試算もあり、特に改善の余地が大きいのが発展途上国だ。
ただ、途上国ではドローンやセンサー、ソフトウエアなどの設備費用に加え、データ処理に必要なインターネット環境や電源の確保がデジタル農業導入の壁となっている。こうした課題を解決するため、チャンドラさんはインターネットの代わりに、途上国でも普及するテレビの地上波を使用してデータをやり取りし、電気は太陽光パネルで発電するなどの方法を考案。今後もさらに改善に努め、投資費用を現在の10分の1にまで抑え、1万円程度で利用可能にするのが目標という。

米国でも農業は作物価格の値下がりや後継者不足に直面しているが、農業のIT化を推進する業界団体「アグゲートウエー」のジム・ウィルソン氏は「農家は収穫量増大と同時に、農地や環境の持続性を気にしている。これを実現できるデジタル農業には多額の資金が舞い込んでいる」と話す。農地・作物管理のソフトやドローンを開発するベンチャー企業が次々に誕生し、米IT大手IBMも人工知能(AI)「ワトソン」を武器に農業に参入した。

今では農家がタブレット型端末を片手に農業を営む光景は珍しくない。世界的なジャガイモ産地である西部アイダホ州農務省のローラ・ジョンソン市場調査・開発局長は「農業の姿は祖父母の世代とは全く違ったものになりつつある」と指摘する。

日本でも昨年8月、農機具メーカーやIT企業の壁を超えたデータの共有や標準化を目指す産学官による「農業データ連携基盤協議会」が発足。スマートフォン用のトラクターナビゲーション・アプリを開発するなど農業のIT化を支援する「農業情報設計社」(北海道帯広市)。創業者の浜田安之さん(47)は「データを使った農業で収益を上げることで、日本の新しい農業経営のあり方が見えてくるかもしれない」と期待する。

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