毎日イノベーション・フォーラム パネル討論「AI、IoTでパラダイムシフトは起きるのか」

2017年8月08日

1日に東京都内で開かれた「第1回毎日イノベーション・フォーラム」では、人工知能(AI)、IoT(あらゆるものがインターネットにつながる)といった新技術で「パラダイムシフトは起きるのか」と題したパネル討論が行われた。新技術の活用で利点が見込まれるインバウンド、イノベーション、ものづくり、ベンチャー輩出などをテーマに、坂村健東洋大情報連携学部長、桜井俊元総務事務次官、AI研究者の坂本真樹電気通信大大学院教授が登壇し、藤原洋ブロードバンドタワー会長がコーディネーターを務めた。
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◇藤原氏「おもてなしにもIoT活用を」




2020年に向け、政府は外国人旅行客数4000万人超を目指す新たな「観光ビジョン」を策定し、目標達成のために各省で実証実験が始まっている。ただ、4000万人もの外国人が日本を訪れた場合、観光情報やトイレや出入り口などの案内情報を多言語でどう提供するかが課題となっていて、IoTに対する期待は高い。パネル討論の冒頭、藤原氏は、まず「IoTを“おもてなし”に活用してはどうか」と提案した。

総務省の旅行客向けサービス基盤「IoTおもてなしクラウドOPaaS.io(オーパース・ドット・アイオー)」の構築に携わった坂村氏。藤原氏の提案におもてなしクラウドで実現したスマートフォンや交通系ICカードをデジタルサイネージにかざすと、自国語に翻訳されるといったサービスを例に挙げ、「OPaaSは話せる言語や、食べられない食材、服用薬、免税対象であるといった情報を、適切に利用できる基盤として作ったが、こうした高度なサービスを運用するには、利用者の個人情報が不可欠だ」と主張。現状ではサービス提供企業が利用者の個人情報を保有しているが、「企業を超えたサービスを提供できないので、利便性が高まらない。国である必要はないが、信頼出来る独立した別の組織が集めて運用した方が、より良いサービスを提供できるようになる」と指摘した。

総務省時代に同クラウドに関わった桜井氏は「五輪があるというだけでなく、日本が将来、IoTやAIといった先端技術の恩恵を受け続けていくためのプロジェクトがおもてなしクラウドだった」と振り返り、「利活用とインフラ整備を同時に進める必要があり、重要なのは基盤づくり。自治体や鉄道、金融機関などのコンセンサスを得なければならない。合意形成につなげるために実証プロジェクトに取り組んでいきたい」と話した。

◇桜井氏「インターネット活用しないと地方自治体のサービス維持難しい」



 

フォーラム全体のキーワードになっている「イノベーション」について、藤原氏が「どのようなイノベーションが起きるのか」と問いかけると、坂村氏は「予測できないからイノベーションであり、答えるのは難しい」と応じながらも「IoT、AI、ビッグデータが産業に影響するのは間違いない。人を取り巻くすべての環境が『ロボット化』され、個人に適切なサービスが自動で提供される社会が理想だ」と述べた。さらに、「その場合も個人データの活用が重要」と続け、「単にIoTに活用するのではなく、個人データ取り扱いの社会的なルール整備も必要だ」と訴えた。

坂本氏も、AI研究で個人情報を含めたデータを活用するにあたり、「データの維持管理や企業を超えて共有ができないことが日本の弱みと感じる」と指摘。「日本には高品質な製品やサービスを理解し、評価できる消費者がいる。個人情報も含めたさまざまなデータをものづくりに結びつけていくことがイノベーションのカギを握るのではないか」と話した。

桜井氏は「福井県鯖江市では自治体が持つデータを開放し、市民などにとって利便性の高いアプリづくりを促すような例も出ているが、人口減少が進む日本では、インターネットを活用していかないと、地方自治体がサービスを維持することが難しくなる。情報銀行のような、情報を出す人と使う人の双方に有用な仕組みをつくる必要があるとの議論もあり、動向を見ていきたい」とデータ活用の重要性を強調した。

◇坂本氏「ものづくり現場もAIでサポート」

 


IoTで日本のもの作りはどのように変わるか。大企業ではすでに、生産設備を遠隔で故障診断したり、稼働データを集めてメンテナンスの予測するなどして、IoTを活用している。坂村氏は「(自社などに限る)クローズドな活用にとどまっていることが問題」といして、「自社だけでシステムを作ることが難しい中小企業はどうすればよいか。無関係な会社同士でも、IoTでオープンに連携する仕組みづくりが必要で、それができないと産業振興はうまくいかない」と述べた。

AIの特徴である深層学習を使い、「むにむに」「ふわふわ」といったオノマトペ(擬音・擬態語)から、人間のようにAIがさわりごごちなどの「質」を認識するシステムを研究している坂本氏は、「オノマトペで質感を自由に作り出したり、編集することでものづくりの現場をサポートできるのではないか」と展望を語った。

◇坂村氏「米国に追いつくため“とにかくやってみる”雰囲気を」

 


また、「世界に通用するベンチャー企業を日本から輩出するのに必要なことは何か」も議題に上がった。桜井氏が、ベンチャー支援などの制度作りやインフラ整備と併せて、人材育成が長期的な成果につながるとの見解を示した。坂本氏は「自ら起業したい」と意欲を見せ、子育て中の女性として「強力なAI搭載ロボットなどで子育て支援が可能になれば」と期待を込めた。

一方、坂村氏は、グーグルなど米国発ベンチャー躍進の背景には「米国の法律が最小限で技術革新が生まれやすい土壌がある。『とにかくやってみる』というスピード感が日本とは違い、イノベーションの差になっている」と持論を展開。「現代のようにインターネットが整備された時代以前に作られた法律をどんどん変えていかない限り、日本は米国に追いつかない。ベンチャーがチャレンジする雰囲気をつくることが大事だ」と強調した。【岡礼子、岡本同世】

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