【デジタル毎日掲載】 ウェルナス ナスの隠れた成分に着目 高血圧改善サプリ開発に挑戦

2019年1月11日

野菜の定番ともいえるナス。水分が93%を占め、一般的には栄養価がさほど高いイメージがないが、その隠れた成分に光を当て、高血圧改善やストレス軽減に効果的なサプリメントの開発に取り組むスタートアップ企業がある。長野県の信州大学発ベンチャー第1回認定を2018年6月に受けた株式会社ウェルナス(長野県上田市、小山正浩社長)だ。他の野菜の1000倍以上の成分含有量を持つ高知県産ナスを使って、現在臨床試験を実施、今年度末までに試験結果をまとめ、20年度に機能性表示食品として商品化を目指す。併せて、ITを活用したヘルスケア事業にも19年度から挑戦すべく、年明け早々数千万円規模の資金調達を予定している。【岩沢武夫】

秋ナスは嫁に食わせろ!
「秋ナスは嫁に食わすな」ということわざの意味は諸説ある。美味の食材を憎らしい嫁に食べさせてはもったいないという嫁いびり、対照的に、水分が多いナスで大事な嫁が体を冷やさないよういたわる気持ち、あるいは種の少ないナスから連想して子種ができなくなる恐れがあるとする言い伝えなど、解釈はさまざまだ。小山社長は事業のプレゼンテーションの際は必ず、ナス柄のネクタイを締め、このことわざを引き合いに「秋ナスは嫁に食わせろ!」と強調する。

ナスに隠されたこの成分は「コリンエステル」と呼ばれる。恩師である信州大学術研究院(農学系)中村浩蔵准教授と二人三脚で16年、ナスに大量に含まれていることを発見し、特許を取得した。02年に信州大農学部に赴任した中村准教授は、地域の農産物を活用し、食を通して健康増進に役立てることはできないかと、信州特産であるソバと木曽地方に伝わる漬物の発酵技術を組み合わせた研究に着手、06年にソバの芽(スプラウト)を乳酸発酵させた食品に血圧低下作用があることを発見した。




食品別のコリンエステル含有量
交感神経の活動を抑制する「コリンエステル」
小山社長は08年から中村研究室に参画、動物実験などを通じて作用の原因となる物質の特定に共に取り組み、13年にその有効成分が「コリンエステル」という神経伝達物質で、交感神経の活動を抑制する効果があることを突き止めた。
「幽霊を探すようなものだった」。この原因成分特定までの長いトンネルを中村准教授は振り返る。「コリンエステル」は紫外線の吸収が弱く、実験装置で目視することができなかった。しかし成分を含む液をネズミの血管に垂らすと血管が広がる効果が確認でき、数百回分析を繰り返した結果、ようやく特定することができた。小山社長は「高校時代から高血圧や睡眠の浅さに悩んでいたが、摂取することで自ら効果を体感できたことが研究を後押しした」という。


[caption id="attachment_2375" align="alignnone" width="799"] ナスのコリンエステルを突き止めた信州大学の実験装置。小山社長(右)と中村准教授=信州大提供[/caption]
しかし、ソバの発酵にはコストや手間がかかる。過去の薬学系の論文に、神経伝達物質が野菜やキノコ類に含まれているとの記載があったことから、「もっと簡単に摂取できる食材で、一人でも多くの人に効果を知ってもらいたい」(中村准教授)との思いから、さまざまな野菜を徹底的に調べ、16年にナスにたどり着いた。

長野県のナスの生産量は、農水省の作物統計(16年)によると全国19位と多くはない。そこで、日本一の産地である高知県に協力を求めたところ、快諾を得た。同県産のナスでも品種によって含有量に差があるが、「高知県では冬から春にかけて、収穫まで長い時間をかけて栽培されるナスがあり、成分が多く蓄積されるのだろう」と中村准教授は分析する。

毎日みらい創造ラボ 第1期グランプリ獲得

直後の16年9月に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の起業支援プログラムに応募、小山社長は「ナスで世の中に打って出たい」と起業を決意し、17年5月に会社を設立、毎日新聞社などがスタートアップ支援のため設立した毎日みらい創造ラボの第1期シードアクセラレーター事業に同年11月採択された。
ラボで3カ月間、メンターと呼ばれる起業関連の専門家からさまざまなアドバイスを受けて事業案を磨き、締めくくりとして18年3月に開かれたデモデイ(成果発表会)では見事グランプリを獲得した。「研究とビジネスは全然違う。メンターの皆さんにいろいろな側面からアドバイスを頂き、大変参考になった」と小山社長は振り返る。

現在、臨床試験は農水省の「ナス高付加価値化のための機能性表示食品開発事業」として、ウェルナスや信州大学に加え、高知県農業技術センターや国の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、食品メーカーなどが参画する「ナス高機能化コンソーシアム」で進められている。天然素材で安全性が高く、汎用(はんよう)性があってさまざまな食品に応用できる特徴を生かすため、形状は粉末やカプセル、ゼリーやタブレットなどで試している。後押しするように18年10月には、ナスの降圧効果をラットで確認したことを記した中村研究室の論文が、食品科学分野の世界的研究誌「フード・ケミストリー」に掲載された。



ウェルナスの小山社長(右)と中村准教授
さらにNEDOの研究開発型ベンチャー支援プロジェクトにも採択され、ナスのコリンエステルの新たな機能の開発に向けて睡眠導入効果の試験に現在取り組んでいる。治験者にナスのサプリを摂取してもらい、脳波を測定して睡眠への効果を測る。

最適な食事を提案 ヘルスケア事業にも注力

並行して取り組んでいるのが個人最適化ヘルスケア事業だ。毎日の食事のデータと血圧や体重などのデータを解析し、最適な食事を提案するサービスを目指している。「スマートフォンのアプリを使ったサービスは最近多いが、入力の手間がハードル。血圧などは腕時計型の計測機器で自動取得し、食事は写真だけで栄養素を解析し、その人に効く食事をデザインする仕組みを目指している」と小山社長。コアになる技術を18年10月に特許出願し、大手システム会社と共同開発、来年度ベータ版の提供を始めたいとしている。

事業化に向けた開発と体制強化のため、来年早々に数千万円規模の資金調達を計画している。「ナスのサプリとヘルスケア事業、それぞれ独り立ちさせて、相乗効果を生み出したい」と、超高齢化とストレス社会に貢献すべく小山社長は意気込んでいる。

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