【仮想通貨】音楽ソフト大手に高齢者施設関係会社…新規参入の意向100社以上のワケ

2018年7月02日

仮想通貨交換業「コインチェック」の「NEM(ネム)」流出事件から約5カ月。20日には韓国の交換所でも約35億円相当の仮想通貨が流出したことが判明し、仮想通貨の代表格「ビットコイン」などの価格が下落した。金融庁は登録業者にも改正資金決済法に基づく業務改善命令を出すなど、業者への監督を強化する一方、今も100社以上が交換業参入の意向を示しているほか、将来の可能性を視野に会社の定款に「仮想通貨交換業」を盛り込む異業種の企業もあり、水面下で「仮想通貨ブーム」が続いている状況だ。【高山純二/統合デジタル取材センター】

エイベックスや高齢者施設関係会社も仮想通貨に熱視線


 
定款に「仮想通貨交換業」を盛り込んだエイベックスの受付=東京都港区で2018
年6月12日、高山純二撮影
 
 
音楽ソフト大手「エイベックス」(東京都港区)は5月、将来の企業目標などを定めた「『未来志向型エンタテインメント企業』を目指して」を発表し、「当社が目指す新事業・イノベーション領域」として、「フィンテック/ブロックチェーン」と明記した。フィンテックは金融と情報技術(IT)を組み合わせた造語で、ブロックチェーンは仮想通貨の中核技術だ。さらに電子決済システムの提供などを行う100%子会社「エンタメコイン」を設立したほか、6月の株主総会では、定款に「仮想通貨交換業」などを追加する変更案を提案し、認められた。

インターネット上では「エイベックスが仮想通貨業界に殴り込み!」などと注目を集め、「エイベックス独自の仮想通貨発行を目指しているのでは?」との臆測も飛んだ。しかし、同社は「仮想通貨については検討段階であり、具体的なことは何も決まっていない」と強調。さらに、「エンタメコインと言うと、仮想通貨のように聞こえるかもしれないが、あくまで決済アプリを想定している。アーティストのグッズ販売で、朝早くから行列になってしまい、現金決済で長時間お待たせしてしまう。電子マネーによる決済ができた方が良い」とエンタメコインの方向性を説明する。

一方、サービス付き高齢者向け住宅などを展開する「やまねメディカル」(東京都中央区)も6月の株主総会で定款に「仮想通貨の交換業および仮想通貨に関する販売所・取引所の運営、管理」を提案した。発表資料では「心身機能が低下した高齢者でも暗号通貨(仮想通貨)を安全・安心・迅速に扱うことができ、それによる恩恵を享受できる環境づくりや支援体制の整備が必要になる」と定款変更の狙いを説明している。

単なる交換業ではなく、「送金・決済のプラットフォーム」の中核に


仮想通貨交換業への新規参入を発表する
マネーフォワードの神田潤一執行役員
=東京都港区で2018年5月23 日、同
社提供
 
 
家計簿アプリや企業向けのクラウド会計ソフトを展開するITベンチャー「マネーフォワード」(MF、東京都港区)は5月、仮想通貨交換業などを行う100%子会社「MFフィナンシャル」を設立した。8月には、ブロックチェーン技術や仮想通貨関連のニュースを掲載した「メディア事業」を開始する予定になっており、将来的には、仮想通貨を中心に法定通貨や電子マネー、ポイントなどともつながる「送金・決済のプラットフォーム」を目指している。

日本銀行出身の神田潤一MF執行役員がMFフィナンシャルの社長に就任。神田社長は「2017年秋ごろから社内で検討していた。コインチェック事件に伴う方針変更などはなかった」とした上で、「数年後は仮想通貨やブロックチェーンの分野から新しいイノベーション(技術革新)が起きる可能性が高く、金融サービスも大きく変わる可能性がある。MFとしてもそこに関わっていく必要があると考えた」と新規参入の理由を説明する。

取引の安全性はもとより、投機の対象となり、価格の変動率(ボラティリティー)が高いことも懸念材料だが、神田社長は「今のようにボラティリティーが高いと、保有していても決済・送金には使えない。インターネットの決済など仮想通貨を使えるところが増えてくると、価値も安定し、ボラティリティーも落ち着いてくると思う」と期待する。さらに、「単なる交換業ではなく、送金・決済のプラットフォームを目指しているが、それが最終形ではないと考えている。ブロックチェーン技術はさまざまなメリットがあると言われており、金融系だけではなく、認証や商流管理など私どもの既存ビジネスと親和性が高く、ユーザーのニーズが高い部分もある」と先を見据える。

金融庁は登録審査を厳格化、事件後の新規登録業者はゼロ

金融庁はコインチェック事件発覚後の3月、有識者らによる「仮想通貨交換業等に関する研究会」を設置。すでに計4回の会合を行っている。仮想通貨やブロックチェーンのリスクや可能性などを討議するよう求めており、犯罪の温床となるマネーロンダリング(資金洗浄)・テロ資金供与対策や、利用者保護のための内部管理体制など仮想通貨を巡り広範な議論を行う予定となっている。

また、金融庁は仮想通貨交換業者の監督も強化。事件発覚当時、金融庁に登録した仮想通貨交換業者は16社、登録制度の開始前から事業を行い、登録審査中となっていた「みなし業者」が16社あった。このうち、みなし業者5社に業務停止命令・改善命令を出したほか、12社(登録業者7社、みなし業者5社)に改善命令を出した。この結果、みなし業者16社は13社が申請を取り下げるなどして、業務を続けているのはわずか3社となっている。

登録審査が厳格化された一方、事件発覚後もさまざまな企業が新規参入の意向を示しており、その企業数は100社以上に上るという。金融庁は「登録申請の問い合わせは増えており、現在も新規の登録審査を行っている」と説明。これまでは利用者のいる既存業者の立ち入り検査を優先実施していたため、新規の登録審査は遅れており、事件後の新規登録業者はゼロのままになっている。このため、一部業者からは「既存の取引所に取引が集中する期間が長く続くことになり、それが市場にとって健全なのか、という考え方もある」と指摘する声も出ている。

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